不動産運用における不動産保有法人の活用による節税
不動産運用や不動産投資として賃貸物件を保有されている場合、不動産所得が多額になると個人の実効税率(所得税+住民税+社会保険料)は累進課税により高くなるため、税金負担が大きくなる問題があります。現在の税制の大きな流れは、個人の増税(所得税・消費税・相続税・社会保険料)、法人の減税という流れであり、法人の活用は節税のための鍵となります(コラム 「上がる個人の税率、下がる法人の税率」)。
不動産の運用・所有に不動産法人を活用する場合、不動産法人の種類は大きく3つありますが、どの種類が適しているかは以下の判断項目により分かれます。
① 家賃収入と所得の水準
② 不動産の保有目的(転売目的か長期保有目的か)
③ 相続税評価
1. 不動産運用における法人の形態
① 管理委託方式
個人で保有している不動産を法人に管理を委託する形態になります。不動産法人は個人から管理業務を委託され、管理料が法人の収入になります。管理料であるためそれほど多く取れないことと、管理の実態と管理料の金額によっては税務上問題となることがあります。この数字なら大丈夫という大きな数字が一人歩きしていることがありますが、あくまで税務調査が入っておらず表面化していないだけですので、数字を鵜呑みにしないよう注意して下さい。
② 転貸方式(サブリース方式)
個人で保有している不動産を法人に貸付け、法人は賃借人に転貸する形態になります。不動産法人は個人から賃貸物件を一括借上げして、家賃収入が収入、個人に支払う賃借料が費用となります。賃借料の水準は、満室想定家賃収入に対する比率で決めますが、適正水準は賃貸物件の用途(居住用か事務所・店舗用か)と立地などで決まります。
③ 不動産保有方式
個人で保有している不動産を法人に移転する形態になります(建物のみ移転する場合と土地・建物の両方を移転する場合の2タイプあります)。賃貸物件を法人に移転するため、家賃収入も全額法人に移転します。
2. 所得の移転効果
所得移転の方法としては、管理委託方式と転貸方式は導入が手軽である反面、個人から法人移転できる家賃収入が限られるため所得移転対策としては不十分です。
一方、不動産保有方式は、賃料収入が全て法人へ移管されるため、所得移転対策としては有効な手段となります。法人へ移転した所得は、個人へ還元させるか、そのまま留保させるかになりますが、個人へ還元する方法には給与や退職金以外にも様々な方法がありますので、それらを組み合わせて対処します。また、法人に貯めると不動産保有法人の株価の評価が高くなる副作用がありますが、それを無くす方法もあります。
3. 不動産の売却に係る税金
不動産を売却する際、個人は譲渡所得になります。譲渡所得は不動産の保有期間に応じて短期譲渡所得と長期譲渡所得に分かれ税率が異なるため、長期保有で譲渡する場合は個人の方が譲渡所得に関しては有利となります。ただし、損失が出る場合は、法人は9年間繰越しができ賃貸からの所得と相殺できるため法人の方が有利となります。
4. 相続における評価
土地と建物の保有者や権利金・地代の収受等によって、相続における評価は以下のように変わります。
① 土地(個人:本人)・建物(個人:本人)
土地・建物の所有者が同一人物であるため貸家建付地(自用地評価×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)の評価になります。また、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)を適用し50%評価減することも可能です。
② 土地(個人:本人)・建物(個人:親族)
土地所有者の親族が建物を建設、又は、土地所有者が建設・取得した建物を親族に譲渡・贈与するパターンになります。建物の所有者は土地を賃借することになりますが、地代を収受すると本人に資金が還流することになりますので、使用貸借にして地代の収受をしないようにします。
使用貸借にすると借地権の評価はないため、土地の評価は自用地評価額となります。また、賃貸人がいる貸家建物を贈与した場合、贈与時点では貸家建付地であるため、贈与により取得した後も貸家建付地の評価となります。ただし、貸家建付地の評価の前提となる土地の使用権を主張できる賃借人が入れ替わると、入れ替わった部分は貸家建付地の評価とはならない点に注意が必要です(これを回避するためには、一旦法人を間に挟むことにより解決することができます)。なお、賃貸マンション・アパートを生前贈与する場合、建物だけを贈与した場合、負担付贈与になり建物を時価で贈与したものとなるため、「預り敷金」相当額を現金で同時に贈与する必要があります。
小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)の適用に関しては、使用貸借の場合、親族が土地の所有者と生計一親族であれば適用が可能です。
③ 土地(個人)・建物(同族会社)
a. 通常の権利金の授受がある場合
貸宅地価額:自用地価額-借地権価額
b. 通常の権利金の授受なし、相当の地代の収受ありの場合
借地権の設定に際し、対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行のある地域において、権利金の支払いの代わりに相当の地代を支払うことがあります。この場合、借地権の設定はなかったものとして取り扱われますが、利用制限があることや借地権を支払う取引上の慣行のない地域でも20%の借地権部分を控除して評価していることから20%相当額を控除して評価します。
貸宅地価額:自用地価額×80%
c. 通常の権利金の授受なし、相当の地代に満たない地代の収受ありの場合
d. 使用貸借の場合
使用貸借とは、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後、返還することを約して相手方よりあるものと受け取ることをいい、固定資産税相当額以下の少額の地代で貸している場合等も含みます。
使用貸借に係る使用権の価額は無いものとして取扱いますので、自用地価額となります。
e. 「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合(使用貸借以外の場合)
「土地の無償返還に関する届出書」は、土地所有者と借地人間において将来無償で借地権を返還することを約し、これを税務署に届け出た書類になります。この場合の借地権の価額は0として扱いますが、利用に一定の制限を受けることから自用地価額の100分の80に相当する金額によって評価します。
また、同族会社に貸している場合において、その同族会社の株式の評価において純資産価額を算定する際は、借地権の価額は0としないで、貸宅地を評価するときに控除した自用地価額の20%相当額とすることに留意が必要です。
なお、要件を満たすことができれば小規模宅地等の特例(事業用であれば特定同族会社事業用宅地等、賃貸用であれば貸付事業用宅地等)を適用し評価減をすることも可能です。
通常よく使われる無償返還方式の欠点は、自用地価額の80%となるものの、その分同族会社の評価に反映される点にあります。この同族会社の評価への反映を避ける方法を用いることで無償返還方式より全体の相続評価額を引下げることも可能ですので、検討をされると良いと思います。
このように、不動産運用における法人の使い方は様々な方法がありますが、当事務所では不動産法人の導入効果のシミュレーションや、どの法人を用いるか、個人地主と法人との契約をどのようにするか等の不動産運用におけるご相談を承っておりますので、お気軽にご相談下さい。