小野山公認会計士事務所

非居住者の定義・判定要件と所得税の課税

海外に出てその国の非居住者になった場合の課税関係は、その国が属地主義を取っているか、属人主義を取っているかによって変わってきます。

 

属地主義・・・国籍に関わらず、その国に居住する人に対して課税が発生します。

属人主義・・・その国の国籍を有する人に対して課税が発生します。

 

日本は「属地主義」を採用しているため、日本の居住者であれば海外での利益を含め全世界所得に対して課税されますが、日本の非居住者になれば海外所得に関しては日本の所得税は課税されません(居住国での所得税は発生します)。反対にアメリカ合衆国は「属人主義」を採用しているため、アメリカ国籍を有している限り世界中どこに住んでいても、全世界所得に対して米国の納税義務が課せられます(そのため米国の富裕層の中には、米国籍を捨てたがっている方も多いという話をよく聞きます)。

それでは、単に海外に住めば日本の非居住者になるというわけではなく、非居住者になるかならないかは、まず居住者の定義が中心にあり、居住者に該当しない人が非居住者となる形で判定されます。

 

居住者の定義(所得税法第2条第1項第3号)

国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。

 

非居住者の定義(所得税法第2条第1項第5号)

居住者以外の個人をいう。

 

居住者及び非居住者の区分(所得税法第3条)

国家公務員又は地方公務員(これらのうち日本の国籍を有しない者その他政令で定める者を除く。)は、国内に住所を有しない期間についても国内に住所を有するものとみなして、この法律(第10条(障害者等の少額預金の利子所得等の非課税)、第15条(納税地)及び第16条(納税地の特例)を除く。)の規定を適用する。

前項に定めるもののほか、居住者及び非居住者の区分に関し、個人が国内に住所を有するかどうかの判定について必要な事項は、政令で定める。

 

 

居住者の判定は、まず「住所」の有無によって判断し、住所が無い場合は現在まで引続いて1年以上「居所」が有るかどうかによって判断します。

ここで言う「住所」とは、「法に規定する住所とは各人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」(所得税法基本通達2-1)とされており、「居所」は人が多少の期間継続して居住しているものの、その者の生活の本拠であるというまでには至らない場所を言います。

このように「住所」は、単に住んでいる所ではなく、「生活の本拠」であることが重要であり、「生活の本拠」であるかは以下の複数の事実関係の積上げにより判断されることに注意が必要です。

 

① 滞在日数

② 生活場所及び生活の状況

③ 職業及び業務の内容・従事状況

④ 生計を一にする親族の居住地

⑤ 資産の所在

⑥ 生活に関わる各種届出状況等

 

例えば、海外に移住したとしても、日本の会社の代表取締役を務めており、生計を一にする配偶者や扶養親族が日本にいる場合、「生活の本拠」は日本にあるものと推定され非居住者とならない可能性が高いと言えます。

 

 

【参考条文】

 

国内に住所を有する者と推定する場合(所得税法施行令第14条)

国内に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有する者と推定する。

1.その者が国内において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。

2.その者が日本の国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して1年以上居住するものと推測するに足りる事実があること。

前項の規定により国内に住所を有する者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国内に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有する者と推定する。

 

国内に住所を有しない者と推定する場合(所得税法施行令第15条)

国外に居住することとなった個人が次の各号のいずれかに該当する場合には、その者は、国内に住所を有しない者と推定する。

1.その者が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有すること。

2.その者が外国の国籍を有し又は外国の法令によりその外国に永住する許可を受けており、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有しないことその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が再び国内に帰り、主として国内に居住するものと推測するに足りる事実がないこと。

前項の規定により国内に住所を有しない者と推定される個人と生計を一にする配偶者その他その者の扶養する親族が国外に居住する場合には、これらの者も国内に住所を有しない者と推定する。

 

 

なお、海外における居住者の判定は国によって異なりますが、シンガポールのように183日以上滞在する者は居住者とされることが多いと言えます(シンガポールの場合は、183日ルール以外に、シンガポール国内に3年間連続して滞在する、あるいは勤務する外国人は、初年度および最終年度におけるシンガポール国内での滞在日数が183日以下であっても、課税対象居住者とみなされる特例があります)。

このように日本と海外における居住者・非居住者の判定要件は異なることから、日本と海外の双方において居住者となる事がありますが、その場合はその国と日本との間に租税条約が締結されているかがポイントになります(シンガポールの場合は租税条約により、重要な利害関係の中心がある国、常用の住居がある国、国籍のある国等によりどちらの居住者になるかが判定されます)。

 

このように日本の非居住者の判定は単純なものではないため、安易なスキームを使われることがないよう注意が必要です(弊事務所ではコンサルティングを行っておりますので、ご相談下さい)。

 

 

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